東京地方裁判所 昭和52年(ワ)6810号 判決
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【判旨】
原告は、東京都内において土地の賃貸借契約につき、期間満了に伴う更新に際し、賃借人より賃貸人に対し、更新料として、借地権価格の五ないし一〇パーセントの割合による金員を支払う慣習法ないし事実その慣習がある旨主張し、これを前提として更新料の支払いを求める。
右慣習の存在を立証すべき証拠として原告が提出した甲第七号証は、社団法人日本不動産鑑定協会内の研究団体である「日税不動産鑑定士会」が作成し刊行したもので、その成立については当事者間に争いがない書証であるが、その内容についてみるに、右は昭和四八年から昭和五二年の四年間における主として東京都二三区内の更新料の授受について調査したものであるところ、その取扱事例は総数で二二九件、うち本件賃貸借契約と同種の商業地域の事例は六七件が取扱われているに過ぎず、しかも、その調査対象となるべき事例がどのような基準によつて選定されどのような方法で調査されたものか明らかでない。従つて右書面をもつて、更新料授受の慣習の有無を認定するに足りる資料とすることはできず、他に右慣習の存在を認めるに足りる証拠はない。
しかも、右調査結果についてみるに、更新料の授受があつた事例は右二二九件のうち二〇七件であつて、調査対象件数の九〇パーセントを超えているが、その授受の理由についてみると賃借人側においては、賃貸人の再三再四の請求のためであるとか、賃貸人との争いを避け、或は訴訟を回避したいためであるとか、借地権の消滅をおそれ或は借地権を確保したいためなど、賃貸人からの請求に対しその争いを避けたい趣旨で止むなく支払つたか、或は法定更新の障害となるべき事情があるかそのおそれがあるため、借地権の安定を図るため更新料を支払つて合意更新したとみられるものが全体の半数に近い49.1パーセントを占めているとみられる。
本来、当事者の合意による更新料の授受を禁止しているか否かはともかく、その要件を具える限り当然に期間の更新を認められるべき法定更新制度のもとにおいて、借地人の更新料支払の意思決定が右のような実情でなされているとすれば、相当数の事件において更新料が授受されているからといつてこれをもつて契約における当事者の合理的意思内容を決定する基準となるべき慣習とすることは相当でない。
(川上正俊)